【事例紹介】漫画家・堀道広さん「100点中58点をキープできるのがプロでいられる理由」

STEERS(ステアーズ)の活用事例を紹介するインタビュー企画の第5回目。今回は『パンの漫画』(ガイドワークス刊)をはじめ、清水ミチコのCDジャケットや山里亮太(南海キャンディーズ)のTシャツデザインを手がけるなど、漫画家・イラストレーターとして活躍中の堀道広さん。

堀さんと言えば、「うるし」や「パン」をテーマにした漫画などコアなファンから根強い支持を受け、一度見たらクセになる独特のタッチが人気。今回はその世界観の秘密をフカボリします。

堀道広 ’75年富山県生まれ。’98年『月刊漫画ガロ』で漫画家デビュー。うるし職人として勤める傍ら漫画の持ち込みを続け、’03年「第5回アックス漫画新人賞」佳作。以来、特徴ある絵柄で地道に活動中。単行本『青春うるはし!うるし部』『耳かき仕事人サミュエル』『部屋干しぺっとり君』(すべて青林工藝舎刊)、『パンの漫画』(ガイドワークス刊)。近年は『パンラボ』の影響でパン好きのイメージが定着。

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うるしの分野でも活動する異色の漫画家

ーー本日はよろしくお願いします。堀さんはうるし塗りの分野でも活動する異色の漫画家として知られていますが、その経緯を教えてください。

漫画家・イラストレーターの堀道広です。現在は隔月刊誌『アックス』(青林工藝舎)で連載しています。ちょこちょこ描いているのはポパイや北日本新聞など。プラスチックの板に似顔絵を描いてトースターでチンする「チンする!プラ板似顔絵屋」もしています。略してチンプラ(笑)。

うるしで陶磁器の修理をおこなうワークショップ「金継ぎ部」も主宰していて、漫画とうるしの仕事を並行していますが元々はうるし塗りの職人が本業。15、6年前ぐらいに漫画を描き始めたんですけど、ぶっちゃけ単なる趣味だったと言いますか……。そんなに頑張っていなかったので、絵で食べられるようになるまでは時間が掛かりました。

石川県で輪島塗りをしていた頃に『アフタヌーン』(講談社)の仕事が決まってプロになろうと決意。上京したまではいいけど、実際には転職するほどの勇気がなくて……。東京でもうるし関係の会社で働いていました。

基本的にぼんやりした性格なんでしょうね。うるしの会社も辞めてしまって、その後は葬儀屋とか精肉工場とかいろいろなアルバイトをやりました。ずっと貧乏でしたけどツラいとかはあまりなくて、普通にアルバイトの仕事自体を楽しんでましたよ。

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卒業製作のつもりで描いた原稿が採用

漫画雑誌『アックス』に3〜4年ぐらい持ち込みを続けていたのですが、箸にも棒にもかからなくて。さすがにもうヤメようと思いました。それで自分に縁のある「うるし」をテーマに卒業製作のつもりで描いたのが『青春うるはし!うるし部』です。

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正直ヤケクソだったのかも知れません。出版社に複数の原稿を持ち込みしたんですけど、うるし部はボクの好きな漫画『サーキットの狼』を横に置きながら、絵の練習として描いたんですよ。そしたらコレが採用された(笑)。世の中なにがどう受け入れられるかわかりませんね。

よく顔とカラダのバランスがおかしいことを突っ込まれるのですが、ペンではなく割り箸で描いているんですよ。めちゃくちゃ描きにくい。1ページあたり6時間かかります。それで、あとの作品のときは途中でめんどくさくなってマジックにしたら1時間で描けた。そこから仕事が劇的に早くなりましたね(笑)。 f:id:fujiiatsutoshi0808:20160702133426j:plain

100点中58点をキープする堀道広の漫画理論

ーー漫画を描くときに意識していることはありますか?

これはもう具体的にどうこうってより感覚的な話になりますが、10%ぐらいかわいい要素を入れておくんです。あざとすぎるとダメですが、ちょっと変な絵でも不思議と受け入れてもらいやすくなります。

あと、100点満点で評価するなら58点をキープするようにしています。たとえば、一般向けでメジャー誌の少年ジャンプに載るような作品なら常に90点以上を求められるんでしょうけど、ボクみたいなコアなジャンルの漫画でそれを目指してもしょうがない。ある程度は崩して描くほうが面白いと思ってもらえるのかなと。

とはいえ30点では原稿がボツになってしまう。そのあたりのサジ加減を感覚的に調節できることが、ボクがプロとしてやれている理由なのかなと思います。 f:id:fujiiatsutoshi0808:20160702133428j:plain

常に弱火でアイデアを考え続ける

ーー独特な絵はもちろんですが、予測不能なストーリー展開などアイデアはどのように生み出すのですか?

ボクの場合は隔月とかの連載が多くて。それだけ間が空いてしまうと、読者も細かい内容を忘れてしまうじゃないですか。ですので、1回で完結する面白い話を心がけています。

あと、いざ面白いことを考えようと思ってもなかなか浮かんでこないものです。ボクの場合、常に脳内のガスコンロにカチッと火をつけておくんですよ。うっすらと弱火で。そんなに頑張ろうとせず、外を散歩したり、家の掃除したり。そうすると、いつかお湯が沸くようにひらめくことが多いかな。

ギリギリまで何もせず火事場の馬鹿力に期待

それでも長いこと漫画家やイラストレーターをやっていれば、アイデアに煮詰まることも当然あります。そんなときボクは、逆に締め切りギリギリまでボーっと何もしない。早朝4時頃とか納期の2時間前ってところまで追い込んでみる。そうすると火事場の馬鹿力が出てきてなんとかなる、というかなんとかしています(笑)。

「パン」にまつわるイラストが人気

f:id:fujiiatsutoshi0808:20160702133431j:plain ーー堀さんのイラストのイメージとして「パン」があります。やはりパンが好きなのですか?

じつは好きになったのは、ここ数年の話なんです。元々はパチスロをやったことがないのにパチスロ漫画雑誌に4年間も連載していて、「ツラいからやめたい」と言ったらパンラボの仕事が代わりにきまして。そこから徐々にのめりこんでいきました。

よく食べるのはスーパーで叩き売りされている銀チョコロール。でも天然酵母のパンとかハード系は子どもの頃には知らなかった味なんですけど、いろんな個性があって最近いいなと感じています。

ちょっとオシャレなパン屋さんから近所のスーパーで売られているパンまで、とにかくなんでも食べますね。自らパンを焼くこともありますよ。 f:id:fujiiatsutoshi0808:20160702133432j:plain

アフリカの床屋の看板っぽいデザイン

ーー今回作っていただいたステアーズのTシャツもパンですが、どういったイメージですか?

最近はパンの絵を求められることが多いので描くのですが……ちょっとネタ切れでして(笑)。ファンの皆様を飽きさせないためでもあるんですが、個人的にも気になっているテイストを混ぜてみました。

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大阪の民族博物館まで見学に行ったりしているのですが、「アフリカの床屋の看板」に注目しており、パンをヘアスタイルに見立ててパロディっぽく仕上げています。皆様がおもしろがって着てくれたらいいな。

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steers.jp

簡単すぎてなんだか不思議

ーーサイトを使ってみていただいて、使用感などはいかがでしたか?

データをアップロードするだけなので簡単でした。わかりにくいところはなにひとつないです。フォントやイラスト素材も選べて楽しいです。普段は紙媒体で仕事をしているので印刷するならデータはCMYKの形式という認識だったのですが、RGBでも大丈夫なのが不思議。

あと、裏面までプリントできるのは良いですね。ボク自身は背中に柄が入っているTシャツは着ないのでやらなかったんですけど(笑)。

ただ欲をいえば、印刷の範囲が決められているんですけど、もう少し裾とか肩までイラストが入れられたらいいなあ。そうしたら、人とかサルがぶらさがっているようなデザインもできると思うので。

なんでもやってみる性格

ーーそもそも洋服を作ることに興味があったのですか?

そうですね。子どもの頃はキユーピー人形に着せる洋服を自分で手作りして、着せ替え遊びを楽しんでいたんですよ。そう考えると昔からモノ作りが好きだったのかも知れません。

洋服を作るのにお金がかかる場合は気が引けてしまいますが、ステアーズは無料なのでなんでもやってみようかなと思いまして。 f:id:fujiiatsutoshi0808:20160702133430j:plain

誰もが知る代表作を生み出したい

ーー最後に今後の目標を教えてください。

ボクのことを知っている人もいるとは思いますけど、誰もが知っている代表作と呼べる漫画を生み出したい気持ちはあります。まだまだ頑張らないといけません。

とはいえ長く漫画家をやっていると、たまにいいこともあるんですよ。たとえば、清水ミチコさんや南海キャンディーズの山ちゃんと知り合えたり。そういえば、山ちゃんの家に遊びに行ったときパンを切るナイフを忘れてきてしまいました。

今度返してもらうか……まあでもあげちゃえばいいや(笑)。

steers.jp